【ネタバレ】チャック・パラニューク『サバイバー』を読んだよ



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アメリカの作家、チャック・パラニュークの小説『サバイバー』を読んだのでその感想。

この作品は、孤独な青年である主人公が飛行機をハイジャックした後乗客、乗員(パイロットはパラシュートで降下させた)を全員降ろした上で、墜落の運命にある飛行機のブラックボックスに向かって自分自身の半生を吹き込むという話。物語は、いきなり主人公が上述した状況に置かれていることが提示されるところから始まる。ネタバレを書くと結末も同様、主人公がブラックボックスに語りかけているシーンで終わり。この後、主人公が順当に飛行機もろとも地面に激突したのか、奇跡が起き彼が助かったのかは不明。ただ、「今日は実に美しい日だ」と主人公が語る言葉で締めくくられている点に微かな救いが見える。

この冒頭と結末の間は主人公の語った半生がそのまま描かれている。

 

以下その概要

 

アメリカのどこかにある集落で共同生活を送って暮らしている宗教団体の信者のもとに産まれた主人公。大人になった彼はその宗教団体の決まりにしたがい、集落の外の世界において一般人に雇われ、その稼ぎを宗教団体のために捧げて暮らす。しかしある日、その宗教団体にガサ入れが入ったことで、集落の信者は集団自殺。外の世界で労働に勤しむ残された信者たちもその事実を知った直後に教義にしたがって自殺していく。

しかしその集団自殺から10年、それを知っているにもかかわらず生き続ける主人公。今突然死ぬ気はないが漠然と自殺への意識は持ち続けているらしい。金持ちの家で雑用をこなして働きながら、危ない宗教団体の生き残りとして奇異の目で見られつつも孤独に生きる主人公のもとにある出会いが訪れる。ある少女、ファーティリティーとの出会いである

彼女に好感を持った主人公。すったもんだありながら彼女と繋がりを持ち始める。そんな中、とうとう残されていた教団の信者が自殺し尽くし残りは主人公ただ一人に。これをきっかけに主人公はあるエージェントと結託し自らの身上を利用して、自分をカリスマ的な宗教指導者として仕立て上げる。少女ファーティリティーの力も利用しながら成功を納めた主人公であったが、殺人の疑いをかけられて一転逃亡生活に。少女ファーティリティーと生きていた主人公の兄と一緒にひたすら警察から逃げる主人公。とうとう空港で追い詰められた彼は持っていた銃を使い飛行機に立て籠もり。で冒頭の場面になる。

 

こう書くと大した話ではないように聞こえる。しかしこれは僕のまとめ方が全面的に悪い。実際は孤独な青年がなんとか人と繋がろうとする刺激的で面白い話なのだ。

これを書くと余計三文小説ぽくなるんだけど少女はかなりの精度の予知夢を見る。だからこの主人公の経験もすごく予定調和的。少女は主人公が最後の窮地を抜け出すとも言うんだけど、果たしてどうなったのかは分からない。最後の最後で彼女の予知が当てにならないような描写もされてる。でも重要なのは主人公が死を目の前にして自分の生きた証を残そうと試みたところ。彼はここで彼の不幸な人生とやっと決別できたという訳だ。うん、ある意味グッドエンド…

 

個人的にこの作品で好きなところはやっぱりこの少女ファーティリティー。快活なんだけど人生に対しては諦観しきったところがある女性。予知能力者でありながら売春的な行為で生計を立てている。なんかこういう性格の女の子を描きたいっていう作者の願望のために全ての設定が後付けされてるみたいな気がする。一応この設定も全て話の中で意味を持つんだけどね。現実にはこんな大人びてて冷めた目で人生眺めてる女の子はそんなにいない。だからこそ魅力的にうつるというわけだ。

 

沈んでいく客船の中で少女ファーティリティーと彼女の兄がダンスをした記憶が作中で描かれているが、このシーンはロマンチックかつ象徴的で美しい。この二人は予知夢によって船が完全に沈まずに自分たちが安全に生き延びることが分かっていたので、優雅にダンスを楽しむことができた。予知をしてしまう辛さをわかり会える兄妹同士が互いを慰め合うように一時のダンスを楽しむ。何も知らない連中を嘲笑いながら。いいっすねぇ〜。このシーンだけでも読む価値があるよ。うん。

 

ちなみに作者のチャック・パラニュークは映画『ファイト・クラブ』の原作者。アメリサブカル界隈の大物だ。いまでも活躍中なんだけど全然翻訳が出てない。この本も絶版で中古を買うしかないのが残念なところ。

 

この本に興味のある人はネットで中古を買うといい。多分古本屋にはないから。